
身元保証制度の全体像ー身元引受との違いや必要なケースとは?
更新日: 2025年07月17日
身元保証制度は、企業への就職や高齢者の介護施設入居など、様々な場面で「身元を保証する」ために利用される制度です。この制度において、保証人は対象者が起こした問題に対して一定の責任を負うことになります。誰が保証人になれるのか、どのようなケースで身元保証が必要になるのか、そして「身元引受」との違いなど、身元保証の全体像を体系的に理解しましょう。
身元保証とは
身元保証とは、ある人物(被保証人)の身元(素性や行動)を第三者(身元保証人)が保証することを指します。特に、被保証人が企業や施設に損害を与えた場合に、身元保証人がその損害を補填する約束をすることをいいます。雇用契約時だけでなく、病院への入院や介護施設への入所、賃貸契約など、様々な場面で身元を保証する人が求められることがあります。身元保証人は、単にその人の身元を証明するだけでなく、万が一の事態に備えて、本人に代わって責任を負う役割も担います。
身元保証人の役割
身元保証人の役割は多岐にわたりますが、主に以下の点が挙げられます。まず、対象者が企業や施設に損害を与えた場合に、本人に代わってその責任を負うことがあります。これは、就職時においては、従業員が横領や機密情報漏洩などの不正行為や、業務上のミスで会社に損害を与えた際に、身元保証人が賠償責任を負う可能性を意味します。ただし、身元保証人が損害の全額を賠償するケースは稀であり、裁判所は使用者の過失の有無や、身元保証に至った経緯など一切の事情を考慮して賠償額を決定します。
また、病院や介護施設への入院・入所時には、費用の支払い保証の役割を担うことがあります。本人が入院費用や施設利用料を支払えなくなった場合に、身元保証人がその支払いを担保する責任を負います。
さらに、入院中や入所中の被保証人の緊急連絡先として、容態が急変した場合や事故・トラブル発生時に病院や施設から連絡を受け、対応する役割も重要です。医療同意が必要な場面では、本人の意識がない終末期や判断能力がない場合に、家族に代わって医師と治療方針について話し合い、同意を求められることもあります。
そして、本人が亡くなった際には、遺体の引き取りや遺品の整理、葬儀、埋葬などの死後事務を行う身元引受の役割も含まれる場合があります。身元保証と身元引受は明確に区別されていませんが、身元引受は特に医療・介護施設を退所する際の引き受け責任を指すことが多いです。
身元保証契約とは
身元保証契約とは、企業や病院、施設の運営者と身元保証人との間で締結される契約を指します。この契約は、被保証人の身元や素行に関する保証だけでなく、万が一被保証人が損害を与えた場合の賠償責任など、本人に何かあった際に身元保証人に対応を求める内容を含んでいます。雇用契約の際に企業が身元保証契約を求めるのは、採用する労働者が問題のない人物であることの証明と、損害賠償の担保を得てリスクを管理するためです。身元保証契約は、将来発生する不特定の債務を包括的に保証する「根保証契約」の性質を持ち、そのため契約書には損害賠償の「極度額(上限額)」を明記する必要があります。この極度額の記載がない契約は無効となります。契約の締結にあたっては、身元保証人本人が契約書に署名・捺印する必要があり、代筆は認められません。
身元保証書とは
身元保証書とは、企業が採用した従業員に対し、入社時に提出を求める書面です。この書面は、第三者である身元保証人が、従業員の身元を保証し、万が一企業に損害を与えた場合に、保証人が本人と共に責任を負うことを契約する内容です。身元保証書を求める目的は、なりすましの防止、履歴書や職務経歴書に虚偽がないことの確認、企業に勤める上で問題のない人物であることの担保です。また、緊急連絡先の確認や、従業員に不正を抑止する意識を芽生えさせる目的もあります。法律上、身元保証書の提出義務はありませんが、企業が必要と判断した場合には提出を求めることが可能です。身元保証書に記載される事項としては、身元保証の期間や、損害賠償の極度額(上限額)などがあります。2020年の民法改正により、身元保証契約において賠償額の上限を定めることが必須となり、上限額が記載されていない身元保証契約書は無効となります。
身元保証に関する法律
身元保証制度は、「身元保証ニ関スル法律(身元保証法)」や民法といった法律によって定められており、身元保証人が過度な責任を負わないよう保護されています。国によるこれらの法整備は、保証責任の範囲や有効期間、損害賠償の上限額などを明確にし、身元保証人への通知義務や契約解除権を定めることで、保証人の立場をより強固にする役割を果たしています。2020年の民法改正では、特に個人が保証人となる根保証契約において、極度額の明記が義務付けられるなど、重要な法改正が行われました。これらの法律は、身元保証契約の適正な運用を促し、保証人となる方々の不安を軽減することを目的としています。
身元保証に関する法的な定め
身元保証制度は、「身元保証ニ関スル法律」によって法的に定められています。この法律は、身元保証人の責任が過度に重くなることを防ぐために制定されており、保証人の保護を目的としています。
身元保証法には、身元保証契約の有効期間に関する規定や、損害賠償の範囲、保証人への通知義務、契約解除権などが明記されています。また、この法律に反して身元保証人に不利な特約を結んでも、それはすべて無効となる「強行法規」としての性質を持っています。
さらに、民法も身元保証契約に影響を与えています。特に、2020年の民法改正により、個人が保証人となる根保証契約では、損害賠償の極度額(上限額)を契約書に記載することが義務付けられました。この上限額が定められていない契約は、法的に無効と判断されます。
このように、身元保証制度は、身元保証法と民法によって厳しく規制されており、保証人となる個人の責任が不当に拡大しないよう配慮された制度となっています。企業や施設が身元保証契約を締結する際には、これらの法律を遵守することが求められます。
有効期間と更新
身元保証契約には、有効期間が定められています。期間の定めがない身元保証契約の有効期間は、原則として契約成立の日から3年間とされています。ただし、商工業の見習者の身元保証契約については、5年間が有効期間となります。
もし契約において3年または5年を超える期間が定められていたとしても、その期間は5年間に短縮され、それ以上の期間は無効とみなされます。
身元保証契約は更新することが可能です。しかし、更新する場合も契約期間は5年を超えることはできません。「異議がない場合は同一内容で更新する」といった自動更新の条項は無効とみなされるため、更新する際には、改めて契約書を作成し、身元保証人の署名・捺印が必要となります。企業によっては、入社時にのみ身元保証書の提出を求め、以降は更新を求めない運用をしている場合もあります。
損害賠償における上限額
身元保証契約において、身元保証人が支払う損害賠償の金額には上限額(極度額)が設けられています。2020年4月に施行された民法改正により、個人が保証人となる根保証契約では、この極度額を契約書に明記することが義務付けられました。極度額が設定されていない場合、その身元保証契約は無効となります。
この極度額は、会社が自由に設定できますが、高額すぎると身元保証人を見つけるのが困難になり、逆に低額すぎると身元保証契約の意義が薄れるため、実務上は労働者の年収や業務内容、予測される損害額などを考慮し、100万円から1,000万円程度が相場とされています。
また、身元保証人が負う責任は、被保証人が損害を与えた場合でも、全額の賠償が命じられることは稀です。裁判所が損害賠償の責任と金額を定める際には、使用者の監督に関する過失の有無、身元保証人が保証を引き受けた経緯、被保証人の任務や身分上の変化など、一切の事情が考慮されます。これは、身元保証人が予測不能な大きな金銭的負担を負うリスクを軽減するための措置です。
身元保証人への通知義務
企業や使用者は、身元保証人に対して特定の情報について通知する義務を負っています。これは、身元保証人の責任が不当に重くなることを防ぐための重要な定めです。具体的には、以下の事由が生じた場合、使用者は遅滞なく身元保証人にその旨を通知しなければなりません。
一つは、被用者(従業員など)に業務上不適任な点や不誠実な事跡があり、そのために身元保証人の責任が発生するおそれがあることを知った場合です。例えば、従業員に健康上の問題が見られる場合や、横領や不正申告の事実が発覚した場合などが該当します。
もう一つは、被用者の任務や任地に変更があり、それによって身元保証人の責任が重くなったり、監督が困難になったりする場合です。具体的には、一般社員から管理監督者への昇進や、内勤から工場勤務への配置転換などがこれに当たります。
これらの通知を怠った場合、身元保証人に損害賠償を請求できなくなる可能性もあるため、使用者は通知義務を果たすことが非常に重要です。この通知は、身元保証人が自身の責任の範囲を把握し、必要に応じて契約解除を検討するための機会を与えます。
身元保証人の契約解除権
身元保証人には、特定の状況下において身元保証契約を解除する権利が与えられています。この解除権は、身元保証人が予期せぬ大きな責任を負うことを防ぐために、身元保証ニ関スル法律によって保障されています。
具体的には、企業や使用者から、被用者に不適任な事柄や不誠実な行為があり身元保証人の責任が発生しそうな場合、または被用者の任務や任地が変更され身元保証人の責任が重くなる、あるいは監督が困難になるという通知を受けた場合、身元保証人は契約の解除を求めることができます。
また、身元保証人が使用者からの通知を受ける前に、これらの事由を自ら知った場合でも、契約解除を求めることが可能です。ただし、この契約解除は過去に遡って行われるものではなく、解除権を行使しない限り契約は有効なまま継続します。この解除権の存在は、身元保証人にとって重要な保護措置であり、責任範囲が不当に拡大するリスクを軽減する役割を果たしています。
身元保証人に不利な契約の無効性
身元保証に関する法律(身元保証法)は、身元保証人に過度な負担がかかることを防ぐため、身元保証人に不利な特約を無効とする規定を設けています。この法律は「強行法規」に該当するため、たとえ当事者間で合意があったとしても、身元保証法に反する内容の契約は強制的に無効と判断されます。
例えば、身元保証契約の有効期間が最長5年と定められているにもかかわらず、契約書に10年と記載しても、その10年という期間は無効となり、5年間に短縮されます。
また、2020年の民法改正により、個人が保証人となる根保証契約では、損害賠償の極度額(上限額)を契約書に記載することが義務付けられました。この極度額が定められていない契約はすべて無効とされます。
このように、身元保証法は、身元保証人が一方的に不利益を被らないよう、法律上の制限を加えて身元保証人を保護しています。企業や施設は、身元保証契約を締結する際にこれらの法的定めを遵守し、身元保証人に不利な内容が含まれていないかを十分に確認する必要があります。
民法改正による影響
2020年4月1日に施行された民法改正は、身元保証契約に大きな影響を与えました。この改正の主なポイントは、個人の根保証契約における「極度額(上限額)の設定義務化」です。
これまでの身元保証契約では、身元保証人が負担する損害賠償の金額に上限が定められていないケースが多く、保証人が予期せぬ多額の債務を負うリスクがありました。しかし、改正民法では、個人が将来発生する不特定の債務(根保証債務)について保証する場合、保証人が負う責任の上限額(極度額)を契約書に具体的に記載することが必須となりました。この極度額の定めがない個人根保証契約は、その効力を生じないとされています。
この改正は、身元保証人の負担を軽減し、保証人が負う金銭的リスクを明確にすることを目的としています。企業や施設が身元保証契約を締結する際には、必ず極度額を明記した契約書を作成する必要があり、これに対応していない身元保証契約は無効となるため注意が必要です。また、企業の身元保証人への通知義務も強化されており、身元保証人の保護が図られています。
身元保証サービス
近年、身元保証人が見つからないという問題に対応するため、身元保証サービスを提供する法人や団体が増えています。これらの代行サービスは、特に身寄りのない高齢者や「おひとりさま」と呼ばれる方々にとって、病院への入院や介護施設への入所、賃貸契約といった日常生活の様々な場面で身元保証を代行してくれる重要な存在となっています。サービス内容は事業者によって多岐にわたり、費用体系も異なるため、利用する際は慎重な検討が必要です。
身元保証サービスとは
身元保証サービスとは、企業や一般社団法人などの事業者が、病院への入院や介護施設への入所、賃貸契約時などに求められる「身元保証人」を、家族や親族に代わって引き受ける代行サービスのことです。このサービスは、特に身寄りのない高齢者や、家族に迷惑をかけたくないと考えている人々にとって、身元保証人が見つからないという課題を解決する手段として利用されています。身元保証サービスを提供する事業者は、単に身元保証人を代行するだけでなく、緊急連絡先の引き受け、入院費用や施設利用料の保証、亡くなった際の遺体の引き取りや死後事務なども含め、多岐にわたるサポートを提供しているのが一般的です。現在、身元保証サービスに関する公的な制度や法律は定められていないため、利用者は提供されるサービスの内容や費用、事業者自身の信頼性を慎重に見極める必要があります。
身元保証サービスが求められる場面
身元保証サービスは、様々なライフイベントで身元保証人が必要となるものの、家族や親族に頼ることが難しい場合に特に求められます。
主な場面としては、以下の通りです。
まず、高齢者が病院に入院する際や、介護施設に入所する際に身元保証人が求められることが非常に多いです。特に、身寄りのない高齢者や「おひとりさま」と呼ばれる方々は、入院時や介護施設入所の際に身元保証人を立てることが難しく、医療機関や施設側も9割以上が身元保証人を求めているため、身元保証サービスが不可欠となります。認知症の患者の場合、保証者の存在が施設入居の条件になることもあります。
次に、賃貸物件を借りる際にも、家賃滞納や部屋の損壊が発生した場合に備えて身元保証人を求められることがあります。
また、就職や転職の際、企業から身元保証書の提出を求められるケースもあります。金融業界や製造業など、報酬や高価な物品を扱う職場では、不正防止や損害賠償請求を容易にするために身元保証人が必要とされることが一般的です。
これらの場面で身元保証人が求められるのは、本人の状況を第三者が証明し、万一の問題に対応するためであり、身元保証サービスは、そうした際に頼れる人がいない場合の有効な選択肢となります。
身元保証サービスの具体的な内容
身元保証サービスが提供する具体的な内容は、事業者によって異なりますが、高齢者が安心して生活できるよう多岐にわたるサポートを含んでいます。主なサービス内容は以下の通りです。
まず、最も中心となるのが「身元保証」そのものです。これは、医療施設への入院や介護施設への入所の際に連帯保証人として就任し、入院・入所時の手続きを代行したり、緊急連絡先として対応したりします。また、退院・退所時の手続き代行や、死亡時の身柄の引き取りも含まれることがあります。
次に、「生活支援サービス」として、日常生活における細やかなサポートを提供する事業者が多数存在します。これには、日常の買い物や通院への同行、日用品・家具の処分、介護保険や年金などの行政手続きの代行、さらには財産管理に関する相談なども含まれます。事業者によっては、24時間365日の緊急駆けつけサービスを提供しているところもあります。
そして、高齢者にとって特に重要なのが「死後事務サービス」です。これは、本人が亡くなった後の葬儀・供養の手配、遺体・遺品の引き取り、各種費用の精算、行政機関への届け出、住まいの片付けなど、多岐にわたる手続きを代行するものです。
これらのサービスは、身元保証単独ではなく、複数組み合わせて提供されることが多く、総務省の調査では、身元保証、日常生活支援、死後事務の3つのサービスを一体として提供している事業者が約83%とされています。さらに、任意後見契約や成年後見制度の利用に関する相談、遺言・相続関連サポートを提供するところもあります。これらの多様な内容から、利用者は自身のニーズに合ったサービスを選ぶことが重要です。
身元保証サービスの費用
身元保証サービスの費用は、提供する事業者やサービス内容、契約期間によって大きく異なります。一般的に、入会金や契約金、そして死後事務費用に備えるための預託金などが求められることがあります。
費用体系は事業者ごとに一様ではなく、サービス内容ごとの費用を明確に示していないケースもあるため、利用を検討する際には、必ず直接問い合わせて全ての費目について確認することが重要です。
具体的には、身元保証サービスのみであれば数十万円、死後事務費用を含めると100万円を超えるケースも少なくありません。中には、預託金を含めると300万円を超える業者もあると言われています。これらの費用は、預貯金や不動産売却などで賄われることが想定されます。
身元保証サービスは行政による規制が十分ではないため、料金設定が不明瞭な悪質な事業者も存在します。そのため、サービス内容と費用の内訳を詳細に説明してくれる事業者を選ぶことが肝要です。また、入会金や月額費用、具体的なサービスごとの費用、さらには解約時の精算方法なども事前に確認しておくべきでしょう。
身元保証サービスに関する相談先
身元保証サービスに関する相談先は複数存在します。まず、法律に関する専門的なアドバイスが必要な場合は、司法書士や弁護士事務所に相談することが有効です。彼らは、身元保証契約の法的な側面や、関連する契約(任意後見契約、死後事務委任契約など)について専門知識を持っています。
次に、高齢者の生活全般に関する相談先として、地域包括支援センターが挙げられます。ここは、自治体が運営する機関であり、地域の高齢者の総合的な相談窓口として、身元保証を含めた様々な支援サービスの情報を得ることができます。
また、身元保証サービスにおけるトラブルや問題が発生した場合には、国民生活センターや消費生活センターに相談することが推奨されます。これらの機関は、消費者保護の立場から、事業者との間のトラブル解決に向けたアドバイスや支援を行ってくれます。
さらに、身元保証サービスを提供する一般社団法人の中には、無料で相談を受け付けているところもあります。これらの団体は、身元保証制度に特化した知識と経験を持っており、具体的なサービス内容や利用の流れについて詳しく説明してくれるでしょう。
これらの相談先を適切に利用することで、自身に合った身元保証サービスを見つけ、安心して利用するための情報を得ることが可能です。
身元保証サービスを選ぶポイント
身元保証サービスを選ぶ際には、いくつかの重要なポイントを比較検討することが求められます。まず、最も重要なのは、提供する会社や法人が信頼できるかどうかです。高齢者向けの身元保証サービス業界は近年発展しており、行政による規制が不十分なため、悪質な事業者も存在します。そのため、会社概要や他の事業内容を含めて、長年の運営実績や事業規模、インターネット上の口コミなどを確認し、信頼性を判断することが重要です。弁護士や司法書士などの資格を持つ専門家が運営しているかどうかも、信頼性の判断材料となります。
次に、サービス内容が必要十分であるかを確認します。利用する側が「何に困っていて、どんなサービスを必要としているのか」を明確にした上で、そのニーズに合ったサービスを提供しているかを精査します。身元保証だけでなく、日常生活支援、死後事務など、付帯サービスが充実しているかどうかも確認しましょう。サービス内容について、丁寧に説明し、最も適したプランを提案してくれる事業者を選ぶべきです。
費用面も重要なポイントです。入会金や月額費用、預託金など、全ての費目が明確に提示されているか、サービス内容に対して料金が適切かを比較検討します。料金設定が不明瞭な事業者は避けるべきです。
最後に、担当者の質も考慮しましょう。担当者が身元保証に関する知識やスキルを身につけているか、親身になって相談に乗ってくれるか、相性が良いかなども、安心してサービスを利用するために大切な要素です。複数の事業者から話を聞き、比較検討する時間を設けることが、後悔しないサービス選びにつながります。
身元保証サービス利用におけるトラブル事例
身元保証サービスの利用においては、残念ながらいくつかのトラブル事例が報告されています。これは、このサービス分野が比較的新しく、行政による規制がまだ十分に整備されていないことが一因として挙げられます。
よくあるトラブルとしては、まず「契約内容がよく分からず高額な契約を結んでしまい、後から解約したいと申し出たが困難である」というケースがあります。事業者に勧められるままにサービスを追加した結果、思ったより高額な契約になってしまうこともあります。
次に、「預託金として高額な支払いを求められたが、その詳細な説明がない」という問題も発生しています。預託金は、亡くなった後のサービス利用に備えてあらかじめ事業者に預けておくお金ですが、その使途や返還条件が不明瞭な場合があります。
また、「約束されたサービスが提供されない」というトラブルも報告されています。例えば、日常生活の支援や緊急時の駆けつけなどが謳われていたにもかかわらず、実際には十分なサポートが得られないといったケースです。
さらに、解約時に説明のないまま精算され、利用者が不利益を被る事例もあります。
これらのトラブルは、主に事業者側がサービス内容や価格、解約に関する説明を十分にせず、顧客が内容を十分に理解しないまま契約を進めてしまったことに起因すると考えられます。そのため、身元保証サービスを検討する際には、契約内容を隅々まで確認し、不明な点は納得できるまで質問する、複数の事業者を比較検討するといった慎重な対応が不可欠です。
おひとりさま高齢者の備え
家族や親族に頼ることが難しい「おひとりさま高齢者」にとって、身元保証は特に重要な問題です。しかし、身元保証サービスだけでなく、終活や相続、成年後見制度や任意後見契約、公正証書の作成、そして保険の活用など、様々な角度から将来に備えることが可能です。これらの対策は、もしもの時に自身の希望が尊重され、安心して生活を送るための基盤となります。個々の状況に合わせた適切な準備を進めることで、不安を軽減し、尊厳ある老後を過ごすことができるでしょう。
身元保証以外の対策
おひとりさま高齢者が安心して老後を過ごすためには、身元保証サービス以外の様々な対策を講じることが重要です。これらの対策は、自身の希望を明確にし、もしもの際に備えるためのものです。
まず、「終活」を進めることが挙げられます。終活は、人生の終わりに向けて準備をすることで、自身の財産や希望を整理し、残された家族や関係者の負担を軽減する目的があります。具体的には、遺言書の作成、財産の整理、葬儀や埋葬に関する希望の明記などが含まれます。
次に、財産管理や医療・介護に関する意思決定を任せるための制度として、「成年後見制度」や「任意後見契約」の活用が有効です。成年後見制度は、判断能力が低下した際に家庭裁判所が後見人を選任する制度であり、任意後見契約は、自身が元気なうちに信頼できる人(任意後見人)と契約を結び、将来判断能力が低下した場合に財産管理などを任せる制度です。任意後見契約は、自身の意思をより反映できるため、特に推奨されます。これらの契約は「公正証書」として作成することで、その法的効力を高めることができます。
また、万が一の医療行為や延命治療に関する自身の意思を明確にするために、「尊厳死宣言書」を作成することも検討できます。
死後の事務手続きを円滑に進めるためには、「死後事務委任契約」を結ぶことも有効です。これは、葬儀や埋葬、遺品整理、各種契約の解約など、死後に発生する事務を特定の個人や法人に委任する契約です。
さらに、万が一の医療費や介護費用に備えるために、適切な「保険」に加入することも重要です。
これらの対策は、それぞれ単独で機能するだけでなく、互いに補完し合うことで、より包括的な備えとなります。専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)に相談しながら、自身の状況に合わせた最適なプランを立てることが望ましいでしょう。

編集者プロフィール

身元保証のけんさく編集部
月間数十件の身元保証・高齢者支援相談で培った実務知識を持つ専門編集者。
法律・介護・費用相場まで横断的に精通し、読者の「もしも」への備えをわかりやすく発信します。